最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)456号 判決 1950年11月17日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人千葉長の上告趣意第一点について。
原審の昭和二四年一一月五日附公判調書によれば、裁判長は、判決の宣告をする旨を告げ、判決主文を朗読し、同時に理由の要旨を告げたことが明らかであるから、原判決の主文は、言渡の際に文書に記載せられていたものということができる。もとより判決は、その宣告するところと判決書に記載するところと異なるようなことがないように、判決宣告の際に判決書の作成せられていることが望ましいことであり、殊に本件のように判決宣告後四〇日を経て判決書が作成せられるようなことは、妥当とはいえないが、それだからといって直ちに右判決を違法であるということはできない。そしてこの見解は、大審院の判例とするところであるが(大正一三年(れ)第一、二三一号同年一一月二〇日判決)、当裁判所も右とその見解を一つにするものである。論旨は、理由がない。
同第二点について。
旧刑訴六八条は、合議制の裁判所の裁判官の中で裁判長が署名押印できないときと又は他の裁判官が署名押印できないときという通常に起り得る場合を規定したものであつて、即ち裁判長と一人の陪席裁判官とがともに署名押印できないような稀有の場合には、すべからく本件を類推適用して判決書に陪席の一裁判官が裁判長と他の陪席裁判官が署名押印できな理由を附記して、署名押印することができるものと解するのを相当とする。されば、論旨は、理由がない。
同第三点及び同第五点について。
事実誤認又は量刑不当の主張は、上告適法の理由とならないのである。
同第四点について。
所論齋藤信吉が倉庫も店舗も持たないブローカーであることは、原判決挙示の証拠たる被告人の原審公判における供述によって認められるのである。従って原判決には、理由不備の違法は存しない。
よって刑訴施行法二条旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員の一致した意見によるものである。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)